コロナ禍で観光産業がどれだけ被害を受けたか
ここでは、コロナ禍が観光産業に与えた社会経済的な影響についてまとめてみました。同産業で生計を立てている人々についても言及しています。持続可能な観光産業の重要性について、環境および文化的な目標との関連性を視野に入れて考察しています。本報告書では、人々の生活、特に女性や若者、インフォーマルセクターの労働者といった人たちの生活に対する弊害を軽減する必要性を強調しています。
コロナ禍によって、観光が社会やその他の経済部門、天然資源、生態系などと、どのように相互に影響を及ぼし合っているかを再考する機会が与えられたといえます。これまで以上に的確に数字で測り管理すること、利益を公平に分配すること、そして持続可能な観光経済への移行を加速させることが求められています。
人々の生活や経済への大きな影響を緩和し、人を第一に考えた観光産業を取り戻すために、5つの分野で提言を行っている専門家もいます。その中には、政府による観光産業への支援の例も含まれています。同産業の改革および発展にあたっては、労働者、観光客、ホストコミュニティの安全と健康を最優先する必要があります。
コロナ禍と観光産業:未曾有の経済的影響
世界で最も重要な経済セクターの一つが、観光です。世界第3位の輸出区分(燃料、化学に続く)であり、2019年には世界の商取引の7%を占めました。観光収入がGDPの20%以上を占めている国もあります。
コロナ禍により世界中の経済、生活、公共サービス、機会が影響を受けましたが、観光はコロナ禍の被害を最大に被った産業の一つです。その影響は、観光産業のバリューチェーン全体に及んでいます。
観光の輸出売上高は、2020年末までに9100億ドルも急減し、1兆2000億ドルとなりました。その影響はより広範囲に及び、世界GDPを1.5〜2.8%押し下げる可能性もあります。
新興国でも観光産業が確立した国でも、観光産業は10人に1人の雇用を支え、何百万人という人々に生計を提供しています。
小島嶼開発途上国(SIDS)の中には、輸出の80%を観光が占めている国もあり、先進国、途上国を問わず、観光は国民経済のかなりの部分を占めています。
さらに、労働集約型の宿泊施設や飲食サービスなど観光関連事業に従事する1億4,400万人の従業員に加え、1億人もの直接雇用者が危険にさらされています。その中でも特に影響を受けやすいのが、全世界の観光産業の80%を占める中小企業です。
とりわけ脆弱なグループが、観光労働力人口の54%を占める女性、そして若者やインフォーマルセクターで働く人々です。
コロナ禍の影響を受けない国はないでしょう。SIDS、後発開発途上国(LDCs)、アフリカ諸国は、雇用と経済成長という点で観光に最も依存している国々です。観光産業が被害を被ったことを受け、これらの国のGDPは、2020年大幅に低下しました。
今日、各国で旅行制限の緩和が進むなか、観光は世界の多くの地域で持ち直しを見せています。